地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2016年07月号 vol.2(7)

認知され始めた「ケアの力」

2016年06月25日 23:53 by spitzibara

 前の記事「『エビデンスがある』で止まったのでは見えないもの」を書いていたら、2011年2月に『介護保険情報』誌の連載「世界の介護と医療の情報を読む」に書いた「米国で認知され始めた『介護の力』」をこちらに再掲してみたくなりました。5年前の情報にはなりますが、視点はまだまだ古くなっていないように感じます。

 多少の句読点の追加や改行、「てにをは」レベルの細かい修正をし、さらに「認知され始めた『ケアの力』」に改題しましたが、以下、ほぼ初出時のままの再掲です。

米国で認知され始めた「介護の力」

「チョコレートは確かに薬じゃありません。でもソラナックス(抗不安薬)より効きますよ」  

 2010年の大みそか、ニューヨーク・タイムズの記事で、こんな印象的な言葉と出会った。新年が明けても電子版で「最も読まれた記事」ランキング上位にしばらく留まった記事のタイトルは「アルツハイマー病の患者本人の思いのままに、チョコだってあげちゃいます(Giving Alzheimer’s Patients Their Way, Even Chocolate)」。

 問題行動が激しく、他の施設を断られたり追い出された認知症の高齢者を受け入れ、落ち着きを取り戻すことに成功してきた、アリゾナ州のキリスト教系ナーシング・ホーム、ビーティテューズ・キャンパスは、その優れた認知症ケアで数々の賞を受賞している。研修プログラムには全米から多くの医療関係者が集まってくる。98年開設の認知症ユニットは46床で、認定看護助手(CNA。日本の介護職にあたる)が1:8、看護職が1:22の職員配置。

個別ケアで明るい気分を引き出す

 同ホームのケア方針の柱は徹底した個別ケアだ。個別プランは、「私は」と本人視点の一人称で書く。何時に寝ようと何時に起きようと、入浴や食事の時間もまったく自由。そのため、活動プログラムも全職員による24時間体制となっている。集団活動は行わず、あくまでも個別プログラムに沿った1対1対応。時刻とは関わりなく、感覚を刺激する活動と感覚を鎮める活動とのバランスをとって、その人のリズムに合わせる。

 食堂は、個々の入所者の栄養管理情報を備え、いつでも個別対応が可能な24時間営業のレストランだ。寝酒もOKだし、夜中の2時に食べたいものを食べたっていい。医師お墨付きの減塩・低脂肪食こそが、実は食欲減退の犯人だったりもする。みんなで一斉に食べる環境では気が散るために、後で空腹から不穏になる人もある。食べたいものがベーコンやチョコだってかまわない。楽しい・嬉しい気持ちになることが問題行動の軽減につながる。

 しかし今でこそ同施設のケアの力を高く評価する州当局も、かつてはカルテにチョコレートの記述を見つけて、不適格施設に指定しようとしたことがあったそうだ。

 冒頭は、そのエピソードを語った認知症ケア・プログラム担当者の言葉である。彼女のエプロンのポケットには誰もが好きなチョコが常に入っている。入所者それぞれの好物も頭に入っている。不穏になりそうな時、まずは好物をちょっと口に入れてあげる。その風味に、ふっと表情が和らぐ。それは確かに、私たち誰もが知っている、日常のささやかな安らぎだ。

介護アプローチの力を科学的に実証

 未だに決定的な治療法が見つからない認知症の高齢者に対する、こうした介護アプローチのポテンシャルが、米国で評価され始めている。これまで、主観的だとか偶発的な結果に過ぎないといわれては軽視されてきた介護アプローチの有効性が、退役軍人省や国立老化研究所など政府機関によって研究され、科学的に検証されようとしている。

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