地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年03月号 vol.7(3)

コロナ禍における「権利擁護・合理的配慮としての面会・付き添い」を考える

2021年02月24日 21:46 by spitzibara
2021年02月24日 21:46 by spitzibara

 先月の2月号で、2つの記事、コロナ禍における介護施設の面会禁止再考:家族を「エッセンシャル・ケアラー」と捉える視点英国の「障害のある私も、ちゃんと治療してください」キャンペーン を書きました。

 その後、それぞれの記事に関連した資料を1つずつ、面会禁止については『看護管理』2月号の「『面会制限』が患者の意思決定にもたらした倫理的課題 コロナ禍で患者・家族を支援した看護士の経験から」という特集。英国の知的障害のある人たちの医療については、その記事でも紹介したアドボケイト団体メンキャップが昨年12月に刊行した報告書”My Health, My Life Barriers to healthcare for people with a learning disability during the pandemic (私の健康、私の命 パンデミックにおける知的障害のある人たちの医療への障壁)“を読みました。

 先月号の2本の記事を書いた時に、すでに漠然とした予感はあったのですが、それでも、介護施設の面会禁止の倫理問題と、障害のある人たちへの医療現場の無理解と偏見の問題が、こんなにもくっきりと重なって見えてくるとは思いませんでした。その2つの問題を繋げるキーワードは、「権利」と「合理的配慮」のように思います。

 今月号では、これら2つの資料をもとに、患者や知的障害のある人の「権利擁護・合理的配慮としての面会と付き添い」の必要について、考えてみました。

 

『看護管理』2月号から

 『看護管理』2月号の特集「『面会制限』が患者の意思決定にもたらした倫理的課題 コロナ禍で患者・家族を支援した看護師の経験から」は、2本のインタビュー、2本の論考、8本の実践報告から成ります。新型コロナ病棟で感染者を受け入れている都市部の大病院、感染者があまり出ていない地方の病院、急性期、緩和ケア、訪問看護など様々な現場で働く看護師の目から、コロナ禍による面会禁止が患者や家族にどのような影響を及ぼしているか、調査結果や具体的な事例を交えて詳細に語られて、読みごたえがありました。

 そこで問題とされている影響を私なりに整理してみると、だいたい以下のようになるかと思います。

① 病状の悪化

 面会禁止で家族に会えないほかにも、病院内でもソーシャルディスタンスにより刺激が減って、せん妄、廃用性症候群、感染症が増えています。認知症の人では症状が悪化。発達障害のある人では自傷行為が増加。それらの変化は、転院や施設入所や在宅復帰が困難になるなど、今後の療養の選択を狭める結果にも繋がっています。家族に会えないことで闘病の気力を失い、透析を拒否して亡くなった人もいました。

② 在宅療養希望の増加

 「面会禁止」により家族に会えないため、終末期の人や癌の患者さんで、退院して在宅療養に移行する人が増えているそうです。家族と会えなくなるという理由で予定されていた入院や施設入所をためらい、その間に症状が悪化するケースもあります。

③ 家族の病状理解の困難

 入院患者の状態は主治医から電話等で丁寧に説明していても、直接会っていない家族には患者の状態を正確に理解することは困難で、治療をめぐる代理意思決定に難しさが生じています。また、家族が退院後に「なんでこんな状態に?」とショックを受けることも多く、トラブルになることもあります。

 この問題については、聖マリアンナ医科大学の急性骨髄性白血病の20代の男性の事例が印象的でした。本人がかねて「あらゆる治療を行っても回復を希望する」と意思表示していたこともあって、多臓器不全で終末期となり、すでに治療は医学的に無益となっているにもかかわらず、詳細な説明を重ねても家族は実際の病状を理解できないようでした。家族は「できることをしたい」「そばにいたい」という強い思いがありながら、それがかなわない苦しさを訴え、医療職側にもそれができないやりきれなさがあったため、医師や看護師の管理者同士で話し合いを繰り返し、感染防護具を装着したうえで対面してもらいました。患者さんの状態を目の当たりにした家族は面会後、DNARに同意。患者さんは家族が見守る中で永眠されたとのこと。

 関西医科大学総合理療センター看護部長の谷田由紀子氏は、急な看取りでは家族が間に合わないことがあると指摘し、以下のように書いています。

 重要な意思決定の場面においても、面会ができないことで患者と家族の間で思うように会話ができず、本心を語り合えていないように感じる。そのため、患者の病状把握を行い、面会が必要なタイミングを適切に捉える必要がある。そのうえで、面会が必要な患者に対しては、感染予防策を万全にした上で、面会制限を部分的に解除することが必要である。(p. 128)

④ スタッフの働き方の変化

 面会禁止の長期化により、スタッフの働き方にも影響が出ています。家族が来れば一緒に処置やケアをしていた病院では、家族が来なくなるとともに、スタッフ自身のペースで動くことが増えたのではないかと、管理者が懸念を感じています。上記③とも関わりますが、「家族も本人もわけがわからない中で病院医療者が敷いたレールの上で医療が進んでいく可能性もある」と、懸念を語る訪問看護ステーションの看護師もいます。

⑤ 終末期の患者と家族の苦しみ

 終末期だと分かっているのに家族と会えないまま過ごしている患者と家族それぞれが、苦しんでいます。患者が亡くなった後で、面会制限に対する病院への不満を口にしたり、会えないために患者の変化に気づけなかった自責に苦しむ家族もいます。『「家に帰りたい」「家で最期まで」をかなえる 看護の意味をさがして』(医学書院 2018)の著書のある北須磨訪問看護・リハビリセンターの藤田愛さんは、以下のように書いています。

 特に『家につれて帰りたい』と望む人生最終段階の方については、長期には無理でも一度だけでも家に帰れることを目標に、挑戦していただきたいと願う。(p.118)

⑥ 家族ケアラーの負担増

 遠方の親族の支援を得られない中で介護を抱えている家族もいます。小児科での付き添い家族(多くは母親)が、交代も外出もできないで疲弊し、子どもも機嫌が悪くなっています。

⑦ 退院調整の不十分

 コロナ禍で退院前カンファレンスなどが激減しているため、退院調整が不十分なままの退院により、再入院となったり、在宅療養を支える多職種の準備が間に合わない事例が出てきています。ある訪問看護ステーションの看護師は、「それらは患者・利用者の不利益に少なからずつながっていると現場にいる私たちは思う」。

⑧ 現場と管理者の軋轢

 病院では、現場看護師がリモート面会導入などを提言したところ上層部から却って非難されるなど、患者の利益を考える現場看護師の苦悩と、感染リスクを案じる管理職との間で価値の対立が起きています。

⑨ 看護師の不全感・無力感

 上記⑧とも関連しますが、個々の患者の利益に沿ったケアをしようと目指しながら、それが十分にできない状況の中で、看護師の心身の健康への影響も懸念されています。

 

 こうした弊害にかんがみて、いくつかの病院からは、面会について以下のような柔軟な対応が報告されていました。

●終末期の患者さんに限って、短時間ひとりずつの面会は許可している。

●管理職が主治医と話をして、面会許可を出せるかを検討している。

●新型コロナ病床もなく自治体での感染者も少ないので、5分以内であれば回数の制限なく面会を認めている。主治医の判断により、5分の制限なく許可されるケースもある。

●第1波で面会禁止にしたところ弊害事象が続いたので、看護部でヒアリングした結果をもって病院長と交渉し、一定の条件を付けて15分の面会が可能になった。ただ、条件から外れた患者からクレームが出ることもある。

 

メンキャップの報告書から

 次に、メンキャップの報告書「私の健康、私の命 パンデミックにおける知的障害のある人たちの医療への障壁」(2020年12月)。メンキャップと「知的障害のある私も、ちゃんと治療してください」キャンペーンについては、2月号の記事を参照してください。

 報告書は冒頭、知的障害のある人が新型コロナ感染によって死ぬ確率は一般の3~4倍という、ショッキングなデータを挙げています。過少報告の可能性を加味し、年齢ごと、性別、エスニシティごとに絞ると、その差は6倍に上る可能性もあるとのこと。

 COVID-19パンデミックにおける知的障害のある人々の医療に関するガイドラインは不明確で、一貫性を欠いており、時に法にかなってもおらず、全国150万人の知的障害者を深刻なリスクにさらしている。

 そこで、メンキャップは2020年6月17日から7月1日に、急性期病院あるいは地域で働いている知的障害看護師239人にアンケート調査を実施しました。調査から焙り出された問題を取りまとめると、以下のようになります。

① 家族の付き添いが認められないことのリスク

 調査では回答者の4人に1人が、知的障害のある人が入院した際に家族も支援者も病棟での付き添いを認められない事例を目撃していました。救急車に乗る際に、付き添いどころか、病院パスポート(緊急時に備えて障害や治療に関する重要事項を書いておく手帳)や服薬中の薬の一覧表をふくめ、一切の書類の受け取りを拒否された事例もありました。

 (付き添いや面会の禁止は)知的障害のある人では、症状を自分で訴えたり必要な情報を自分で伝えることができないことに加えて、防護具や前と異なる手続きが理解できにくく不安につながるため、介入の失敗や本人の苦しみ、命にもかかわる事態につながる可能性がある。

 NHSの面会禁止のガイドラインは、2020年4月9日の改定で、知的/発達障害のある人たちの不穏の回避のために必要な面会と付き添いを例外として認めました、さらに5月の改定では、身体障害のある人も含め患者のニーズを支援するために必要な面会と付き添いも認めました。しかし、現場での理解が徹底されておらず、いまなお対応にはばらつきがあります。

 医療現場で知的障害のある人に付き添いを認めることは、とりわけ病院においては、命にかかわるほど重要な合理的配慮である。

② 合理的配慮の不足

 20年11月のLeDeR(知的障害者死亡調査)報告書によれば、知的障害のある死者の21%で、合理的配慮の必要が示されていたにもかかわらず、その配慮が行われていなかったとのこと。また、そうした事例は、新型コロナで死亡した人ではそれ以外の死因の人よりも多かった、といいます。新型コロナで亡くなった人に行われなかった合理的配慮として、最も多く報告されたのは、以下の3つでした。

●病院での専門的な知的障害サービスの提供

●個々のニーズに応じたケア提供の工夫

●不慣れな環境で、本人をよく知っている人から支援を受けられることの保証

 配慮の中にはパンデミック下では『合理的』とみなされなくなるものもあるが、すべての人の安全を確保するためには、感染予防の手続きを一定程度変更することが不可欠である。24時間介護やコミュニケーションに支援が必要な人に合理的配慮を行わないなら、診断や治療のアウトカムを損なうリスクが上がる。

③ 地域サービスの不足

 回答した知的障害看護師の多くが、パンデミックによりレスパイトと地域でのサービスが減ったことで患者と家族が支援のない状態に陥り、心身の健康を損なって、中には危機的状況となっている事例もある、と述べています。

④ 不適切な退院

 回答者の57%が、知的障害のある患者の退院時に適切な支援を整えるための時間が十分に取られていない、と指摘。ベッドを空けるため国は3月に早期退院の方針を出しましたが、知的障害のある人の場合、臨床的には退院が可能であっても、退院後の支援をすぐに組み立てられるわけではありません。決まったら数時間後に退院という事例や、無理な退院のため数日後に再入院となった事例もありました。本人の健康リスクとともに、福祉の現場でも受け入れ準備が不十分になれば、安全確保の面からも懸念が指摘されています。

⑤ リモート診察

 NHSの長期計画では対面診察の3分の1をリモートや電話での診察に移行する目標が打ち出されていますが、言葉で症状を伝えることができない知的障害のある人の場合、しぐさや姿勢やちょっとした行動の変化など、対面なら症状を伝えるヒントになるものがリモートでは見落とされてしまい、それが命取りになることもあります。例えば、便秘による合併症での入院事例が増えているとのこと。リモート診察の安全性については、エビデンスが必要です。

 また、知的障害のある人の中には、金銭的な理由や技術的な理由でリモート診察にはアクセスできにくい人もあります。メンキャップは、もしリモート診察を標準にする場合には、知的障害のある人を例外とすべきだと主張しています。

 

 これらの問題を改善するために提言されている主なものは以下。

より明確なガイドライン

 コロナ禍での医療に関するガイドラインの主要部分の中に、知的障害のある人々のニーズへの対応を明記すること。全国のベスト・プラクティスを紹介すること。救急搬送のガイドラインでも、知的障害のある人では病院までケアラーとアドボケイトが付き添えることを、より明確にすること。DNAR(蘇生不要指示)について調査を行い、同意がない、あるいは適切な意思決定を経ていない場合にはカルテから削除すること。

●合理的配慮

 合理的配慮は、知的障害のある人にとっては命に係わるほど重要。なにが「合理的」かは許容できる範囲によって異なるにせよ、配慮を検討し、可能なところでは配慮をする必要がある。政府と国の保健機関は、パンデミック下での具体的な合理的配慮の事例を示して、より明確な通知を出すこと。

●死亡事例の調査

 なぜ知的障害のある人がこんなに多く亡くなっているのか、理由を知るための調査を行い、繰り返されないための予防策を講じること。

●研修

 この数か月の体験からはっきりしたのは、医療には文化的変容が求められているということ。危機に際して医療が知的障害のある人たちに向けている眼差しを変えなければならない。彼らは医療現場では最も助けを必要としている、価値ある大切な人たちであり、「犠牲になっても仕方がない人」「知的障害者だからみんな同じ」「余計な手間がかかる人」とみなすべきではない。すべての医療専門職がそれぞれの専門領域において、自信をもって知的障害のある人に柔軟かつ個々のニーズに沿ったケアを提供できるためには、研修が重要。

 

ケアされる側の人権

 『看護管理』の特集で、日本のさまざまな現場で働く看護師が指摘している「面会禁止」の倫理的問題と、英国のメンキャップが知的障害のある人への「合理的配慮」をめぐって指摘している問題とは、驚くほど重なり合っていないでしょうか。

 京都大学大学院緩和ケア・老年看護学教授の田村恵子氏は、がん看護や緩和ケアの現場の看護師が「面会制限に起因して生じた患者さんの権利が守られない状況に対して、倫理的なジレンマを感じている」。また、コロナ禍に際してACPを推進しようとする医師たちの声に対して「一つの選択肢について同意を取るような形で、ACPがどさくさ紛れに進められてしまうのでは」と危惧し「患者さんの権利が守られるとは思いません」と述べるなど、「患者さんの権利」という視点から論を展開し、最後に以下のように書いています。

 真に患者さんの側に立った時に見えるのは人権なんですよね。「看護師のジレンマ」という切り口や論点を変えないといけないと思っています。(p.107) 

 

 先月号の記事を書いてから、「コロナ禍で緊急事態だから仕方がない」と言って終わる思考停止には、どんな問題があるのだろう、何が欠けているのだろう、と、ずっと考えていたのですが、2つの資料を読み、この田村氏の指摘に触れて、大きな気付きを得ました。

 コロナ禍で様々に負担が増えている専門職の立場や、感染者や万が一にもクラスターでも出したら責任を問われることを危惧する組織の側から、患者や障害のある人たち当事者本人の側へと、「真に」視点を移した時に初めて、田村氏が言うようにケアされる側の「人権」が見えてくるのでしょう。そして、その時に初めて、権利擁護と、そのための合理的配慮として、面会や付き添いをめぐるルールを柔軟に捉える必要が見えてくるのかもしれません。

 先月の記事の最後に書いた、「ケアをめぐる様々な試行錯誤と議論を通じて形作られてきた大切な価値や理念を、コロナ禍においても失わないでいようとする姿勢」とは、きっと、感染予防の必要と患者の権利擁護という両方の視点をどちらも手放すことなく、その両者の間の現実的なバランスを、個々の患者のニーズに即して、丁寧に模索し続けようとする態度のことなのではないか、と2つの資料を読んで思いました。

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