地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2019年03月号 vol.5(3)

プラセボ効果とは何かー臨床における薬の効果(Effectiveness)を考える

2019年02月24日 11:42 by syuichiao

 過去2回にわたり、『健康の社会的決定要因』に関連したテーマを取り上げてきました【1】【2】。“健康状態の改善に医療が重要である”という信念はなかなか強固なものです。しかしながら、健康問題に医療そのものが寄与している割合は、私たちが想像しているよりも小さく、むしろ、患者の健康関連行動や社会的環境の方が大きい可能性が複数の疫学研究によって支持されていました。

 また、近年ポリファーマシーに関心が集まる中で、医薬品の不適切処方に対して積極的な改善介入をすべきという風潮が強まっているように思います。もちろん、医学的に不適切と考えられるような薬が漫然的に使用されている状態は少なからず是正されるべきでしょう。しかしながら、不適切処方の是正が必ずしも患者予後改善につながるとは限りません。実は、不適切処方に対する介入を行っても、死亡リスクを含め、患者の臨床的な予後が改善するかどうか、明確なことは分かっていないのです【3】【4】【5】。

 医学的に不適切と判断された薬物療法を、医学的に適切な仕方に是正しても患者予後が変わらない可能性がある。このことはまた、薬の有効性にしろ、有害性にしろ、薬そのものが健康に与えている影響はごくわずかである可能性を示唆しています。だからと言って薬物療法そのものが無意味というわけではありません。薬によって不快な症状が改善され、身体的・精神的苦痛から解放されている人も少なくないはずです。ただし、その改善効果が薬そのものの厳密な効果なのかについては疑念の余地があるということです。

【プラセボ効果とは何か】

 薬そのものの厳密な効果をEfficacy【6】と呼びます。しかし、実際には自然治癒や、服薬という行為に付随する健康関連行動が複合的に影響して臨床的なEffectiveness【7】を生み出しています。様々な要因がEffectiveness形成に関わっている【8】と考えられますが、その中の一つにプラセボ効果があります。

 プラセボとは効き目のある有効成分が含まれていない偽薬のことで、理論上は健康状態に何ら影響を与えることがない薬です。しかし、実際には、プラセボの服用によって、健康状態が改善することも多く、こうした効果を一般的にはプラセボ効果と呼びます。

 プラセボ効果と言っても、「それほど大きな効果ではないのではないか?」、あるいは「単に偶然の産物ではないか?」そんなふうに思われる方も多いでしょう。今回は、最新の医学論文を参照しながら、プラセボ効果の実体に迫りたいと思います。

【参考文献/脚注】
【1】社会的環境が人の健康状態を決定する―社会疫学のススメ. 地域医療ジャーナル2019年01月号 vol.5(1)
【2】格差社会における健康問題. 地域医療ジャーナル2019年02月号 vol.5(2)
【3】Br J Clin Pharmacol. 2016 Aug;82(2):532-48. PMID: 27059768
【4】BMC Fam Pract. 2017 Jan 17;18(1):5. PMID: 28095780
【5】Cochrane Database Syst Rev. 2018 Sep 3;9:CD008165. PMID: 30175841
【6】日本語では「効能」と訳されることが一般的です。しかし「効能効果」という言葉に象徴されるように、日本語における効能と効果の区分は曖昧です。薬学領域でも効能と効果は区別さず「有効性」と表記されることも多いでしょう。本稿ではそのような混同を避けるため、薬そのものの厳密な効果についてEfficacyという語を用いることにします。
【7】「効果」と訳されるのが一般的ですが、効果と言う日本語の意味はとても広範にわたります。経済効果やドップラー効果など様々な文脈で使われるため、本稿では薬を飲むことによってもたらされる薬剤の臨床的な効果(これには自然治癒やプラセボ効果も含まれる)についてEffectivenessという語を用いることにします。
【8】プラセボ効果や自然治癒による症状の改善の他、ホーソン効果やピグマリオン効果などを挙げることができます。また、健康の社会的決定要因のいくつかは、薬物治療におけるEffectiveness形成に寄与しうると筆者は考えています。

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