地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2021年08月号 vol.7(8)

ねこでも読める医学論文 第35話「薬の説明書の内容によって、副作用の頻度が変わる?」

2021年07月26日 01:25 by ph_minimal
2021年07月26日 01:25 by ph_minimal

はじめに

薬の副作用情報の伝え方次第ではノセボ効果が出やすくなるんじゃないかと思っていた矢先、ドンピシャな論文が発表されていました。パイロット研究(予備的な研究)なので、症例数が少なく、この研究ひとつで確定的なことはわからないとは思いますが、テーマがおもしろいので取り上げてみたいと思います。

 

ねこでも読める医学論文 第35話「薬の説明書の内容によって、副作用の頻度が変わる?」

みに丸「ボス~、薬局が患者さんに渡す薬剤情報提供書ってあるじゃないですか」

はかせ「処方薬の飲み方と効能効果、注意事項が書いてあるやつのこと?」

みに丸「それです。薬局によってデザインはさまざまだと思うんですけど、注意事項に副作用についても載ってますよね」

はかせ「載ってるね。どこまで詳しく書いているかは薬局によるのかな」

みに丸「いろんな副作用が載っている場合、飲むのが怖くなってしまったり、副作用がでやすくなったりすることってあるんでしょうか」

はかせ「ハハーン。ノセボ効果が出るんじゃないかってことだね」

みに丸「安全に服用してもらうためには、副作用について伝えないといけないけど、ありとあらゆる副作用が起こりうるということを患者さんが認知することで、ノセボ効果が出るとしたら悩ましいですね」

はかせ「そうだね。一方で、説明文書をまともに読まずに捨てちゃう人もいるかも…。小難しいことがズラッと並んでいると読む気が失せたりしてね」

みに丸「そういえば、市販で売られている薬には患者向けの説明文書がついてますが、薬局が交付する薬剤情報提供書よりも情報量は多いような気もします」

 

※参考までに日本で広く使用されている痛み止めの市販薬の説明文書を見てみましょう(この原稿を書いている私自身がこれを飲んでいるので…汗)。さまざまな副作用が記載されています。

https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/package_insert/pdf/loxonin-s_2.pdf

 

はかせ「難しい表現は控えめだけと、けっこう怖い副作用もしっかり記載されているね。怖くなってしまう人はいないのかなぁ」

みに丸「あまりにもたくさん記載されていると、何に気を付けたらいいかようわからんってなりそうですね。副作用情報が膨大すぎると、自分には起こらないだろうとスルーしちゃったりするのかな?患者さんに渡す説明文書の内容によって、ノセボ効果が出たり出なかったりするんですかねぇ」

はかせ「説明文書のノセボ効果を検証した研究[1]も実施されていたような…」

みに丸「じゃあ、その論文を読んでみましょう!」

 

 

[1] Prediger B, Meyer E, Büchter R, Mathes T. Nocebo effects of a simplified package leaflet compared to unstandardised oral information and a standard package leaflet: a pilot randomised controlled trial. Trials. 2019 Jul 26;20(1):458.. PMID: 31349865

  

対象論文はこちらからダウンロードできます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6660653/pdf/13063_2019_Article_3565.pdf

ぜひとも論文と照らし合わせながら、ねこ薬剤師たちの論文抄読会にご参加ください。

 

~研究の背景~

はかせ「1ページの『Background(背景)』に目を通しておこう。まず、ノセボ効果の説明だ。『治療によって起こりうるネガティブな効果、つまり副作用が起こるかもと予期することで、副作用を経験する確率が高くなる現象を言う。ランダム化比較試験ではプラセボ群でも実薬群と匹敵するくらい有害事象が発生する』とある。まあ、プラセボ効果の副作用版みたいなものだね」

みに丸「ノセボ効果のおさらいですね。OKです」

はかせ「ノセボ効果は『治療法の副作用に関する情報の提供方法によって影響を受けることが最近の研究で示されている』」

みに丸「へぇ~。やっぱりそこ気になりますよね」

はかせ「『副作用を予期したり、経験したりすることで、治療の中止につながり、ノセボ効果で生じた症状の治療に追加の費用がかかることもある。副作用情報を伝えないことで回避できる症状があるかもしれないけど、患者が情報提供を受ける権利を奪ってしまうことになるので許容されない』ということなんだが、これはわかるね。ノセボ効果を引き起こしたくないけど、副作用の注意は必要なので悩ましい」

みに丸「それそれ。ほんと悩ましいですよね」

はかせ「これはドイツの研究なんだけど、『ヨーロッパの標準的な説明文書には、想定される副作用が幅広く記載されているため、その結果、さまざまな副作用に対する強い予測が、ノセボ効果を誘発する可能性がある』とのことだ」

みに丸「いろんな副作用がズラッと書いてあるんですね」

はかせ「そこで、『説明文書のデザインや内容によって、有害事象の発生頻度が変わってくるかどうかを検証した』ってわけ」

みに丸「なるほど。興味深い研究ですね。ところで、『pilot randomised controlled trial』と書いてありますが、パイロットってなんです?パイロットを対象に試験したってことですか?」

はかせ「違う。テレビの『パイロット版』とか聞いたことない?いざ番組を始める前に、試験的に先行して作られた作品をパイロット版っていうんだ。それとニュアンスとしては同じような感じかな。いざ臨床試験を実施するぞ!って前にこのテーマでいけるかどうか小規模の試験を事前に行ったりするんだよ。予備的研究ってニュアンスだね」

みに丸「なんだ、戦闘機のパイロットじゃないのかぁ~」

 

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