こんにちは。Independent Librarian(インディペンデント ライブラリアン) の chebsat33 です。
この連載では、主に “情報環境のあまり整っていない医療職がEBMを実践する際のヒントとなるようなリソースと活用のコツ” を紹介していく予定です。名付けて『ライブラリアンによるないないづくしのEBM』、略して『LiNE』としてみました。細く縒られた切れやすい糸のように拙い私の文章が、読んでくださる方たちのもとでそれぞれに綴られていき、いつか一枚の布のように何かの時にお役に立つものになったとしたらうれしいです。どうぞ、お付き合いくださいね。
今回から、『Resources for Evidence-Based Practice: The 6S Pyramid(根拠に基づく臨床のためのリソース:6Sピラミッド)』の各階層に該当するリソースの例を紹介していきます。ピラミッドの日本語訳や各階層の関係性については、前回の「第7回: まとまりはどこから」を参照してください。
第8回と第9回でとりあげるのは、「Summaries (要点のまとめ)」に関するリソースです。
〈今回紹介したリソースは2019年11月15日までにアクセス確認を行いました〉
Summaries:要点のまとめ
6Sピラミッドにおける「Summaries」とは、「特定の臨床課題についてのエビデンスを統合したリソース」のことです。教科書的なリソースが該当し、その中でも定期的に更新されるものを対象とします。
今回はこのうちのひとつ、「診療ガイドライン」についてです。
診療ガイドラインとは
診療ガイドライン(Clinical Practice Guideline、CPG)とは、「診療上の重要度の高い医療行為において、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」(『Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 2017』)と定義されています。
日本の診療ガイドライン
まずは、日本で作成されたCPGを探すためのリソースです。
Mindsガイドラインライブラリ. (https://minds.jcqhc.or.jp/)
日本で発信されたCPGは、2004年から公共財団法人日本医療機能評価機構によるEBM普及事業『Minds(マインズ)』がとりまとめています。Mindsの主な役割は、CPGの収集と評価、作成や活用の支援です。サイトのトップページからCPGおよびCPGの解説を検索することができますが、ウェブ上の最新版を無料で利用できるもの・最新版は書誌事項のみで前版を閲覧できるもの・書誌事項だけのもの、とCPGによって登録状況が異なります。
東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース. (https://guideline.jamas.or.jp/)
Mindsよりも早く日本のCPGの情報を収集・整理していたのが、東邦大学メディアセンター(東邦大学の図書館)です。2001年からCPGのリストを公開しており、2014年からは医学中央雑誌刊行会(医中誌)と共にこのデータベースを提供しています。東邦大学と医中誌とでは収集基準が異なること、エキスパートオピニオンなど厳密にはCPGとはいえないものも含まれていること、ひとつのCPGが章ごとに分かれたデータとして登録されている場合があるなどの特徴があります。
CPG作成方法の変化と留意点
CPGの作成方法は、時の移り変わりと共に変化しています。初期のCPGは、専門家の中でもいわゆる "偉い人" の話し合い(GOBSAT=Good Old Boy Sitting Around the Table)で推奨を決めていました。次にEBMの考え方の普及と共にエビデンスの質(研究デザインによるエビデンスレベル)を重視して推奨を決める時代があり、現在はアウトカムを主体としたエビデンスの統合で推奨を決める方法になっています(南郷栄秀. 信じていい診療ガイドライン、鵜呑みにしてはいけない診療ガイドライン. 診療ガイドラインが教えてくれないこともある. pp.2-9. 2016. ISBN:9784525207014)。
Mindsの作成マニュアルを遡ってみると、2007年版はエビデンスの質から推奨を作成する方法を案内しており、その後7年の空白期間を経て、2014年版からエビデンスを統合し他の要素にも配慮して推奨を決める方法に変更されています。ただ、今もたまにですが、新しく発表されたCPGであってもエビデンスの質をもとに推奨を決めているものを見かけます。エビデンスの質を重視して作成された推奨は正しくないとは言えませんが、エビデンスの質で判断できない(判断を必要としない)臨床課題はありますし、国際的な基準である『GRADE』でもエビデンスの質と推奨レベルは分けて考えています。私個人としても、エビデンスの質にこだわりすぎるのではなく、さまざまな角度から臨床課題を捉える現在の方法で作成された方がよいと考えます。また、司書として、CPGそのものだけではなく、CPGをとりまく動向にも留意していくことが情報サービス専門職の責務であると考えています。
みなさんが手にしたCPG、どのような方法で作成されているでしょうか。
そこで、古い方法で作成しているCPGの特徴を図にまとめてみました。
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