こんにちは。Independent Librarian(インディペンデント ライブラリアン) の chebsat33 です。
この連載では、主に “情報環境のあまり整っていない医療職がEBMを実践する際のヒントとなるようなリソースと活用のコツ” を紹介します。名付けて『ライブラリアンによるないないづくしのEBM』、略して『LiNE』としてみました。細く縒られた切れやすい糸のように拙い私の文章が、読んでくださる方たちのもとでそれぞれに綴られていき、いつか一枚の布のように何かの時にお役に立つものになったとしたらうれしいです。どうぞ、お付き合いくださいね。
さて。
第8回から、『Resources for Evidence-Based Practice: The 6S Pyramid(根拠に基づく臨床のためのリソース:6Sピラミッド)』の各階層に該当するリソースの例を紹介しています。ピラミッドの日本語訳や各階層の関係性については、「第7回: まとまりはどこから」を参照してください。
第11回では、個々の研究のあらましについてです。6Sピラミッドでは「Synopses of Single Studies」が該当します。
Synopses of Single Studies:個々の研究のあらまし
6Sピラミッドの「Synopses of Single Studies」に該当するリソースには、個々の研究のあらましが含まれます。その領域の医療職であれば読んでおいた方がよいもの・質の高い文献の要約が該当します。
Synopses of Single Studies の例
Evidence-Based Abstract Journals
Synopses of Single Studiesをメインにまとめた雑誌は、"レビュー誌" や "抄録誌"(Evidence-Based Abstract Journal)と呼ばれます。第三者や編集者で構成された委員会などが文献を厳選し、研究内容の要約と共に質の評価を行い、コメントを付したものが該当します。前述のマクマスター大学による6Sピラミッドの紹介ページにも、該当するリソース例がタイトルのみですが挙げられていましたので、版元のサイトや図書館の書誌データなどを使い、各誌の編集方針や刊行状況を調べてみました。
※タイトルの変更や雑誌の統合・廃刊については、解説で補足をしています。
※ISSN(International Standard Serial Number、国際標準逐次刊行物番号)とは、その雑誌の識別番号です。ヘルスサイエンス系の雑誌は、対象の領域や内容をそのものをタイトルにする叙事的なものが多いので、よく似たタイトルが多く、識別することが難しい場合があります。読みたい雑誌を見つけたときは、ISSNも一緒にメモしておくとよいでしょう。タイトルの記憶があいまいでもISSNのメモさえ残っていれば、その雑誌にたどりつくことができます。
※略誌名は、PubMedを含むNCBI Database(米国国立生物工学情報センターの提供するデータベース群)の検索に使えます。例えば、PubMedで雑誌を限定して検索する際は、略誌名のフレーズかISSNに "雑誌を表すタグ" をつけて検索します(例:『BMJ Evidence-Based Medicine』なら、"BMJ Evid Based Med"[TA] ; "BMJ Evid Based Med"[Journal] ; "2515-4478"[TA] ; "2515-4478"[Journal] のいずれかの検索式が使えます) 。
BMJ Evidence-Based Medicine. (https://ebm.bmj.com/)
BMJ Publishing Group 発行 (2018-, ISSN:2515-4478)。隔月刊。前誌名は『Evidence-Based Medicine』(1995-2017, ISSN:1356-5524)。ヘルスケア領域におけるEBMの実践や質の向上を後押しできるような研究が対象。国際的な医学誌を系統的に検索して文献を選定しています。詳しい編集方針は「About(https://ebm.bmj.com/pages/about/)」にあります。略誌名は "BMJ Evid Based Med"。
ACP Journal Club.(https://annals.org/aim/journal-club)published in "Annals of Internal Medicine"
American College of Physicians 発行。Evidence-Based Abstract Journal と聞いて真っ先に思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。『Annals of Internal Medicine』(ISSN:0003-4819)の補巻(Supplement)として登場し、一時期は独立して刊行されていましたが、現在は再び『Annals of Internal Medicine』に吸収され、月ごとの特集記事として刊行されています。また、2000年以降の一部の記事は『BMJ Evidence-Based Medicine』にも掲載されています。対象となる文献は、110以上の国際的な臨床雑誌に掲載された内科領域の研究から選定しています。詳しい編集方針は「Purpose and Procedure(https://annals.org/aim/pages/acpjc-purpose-and-procedure)」にあります。独立刊行時代の略誌名は "ACP J Club" ですが、現在は統合先の "Ann Intern Med" が略誌名となります。PubMed等のデータベースでは、書誌データにある巻号数の後に "JC" と記載されます。
Evidence-Based Obstetrics and Gynecology. (http://www.sciencedirect.com/science/journal/1361259X)
Churchill Livingstone ; Elsevier 発行(1999-2006, ISSN:1532-3366)。季刊。2006年廃刊。編集方針や文献の選定方法の確認はできませんでした (版元サイトでは「廃止」の表記があるだけで編集方針などの記述は無く、目次情報から文献のデータに遷移してもすべてアクセス不可になっていました)。PubMedへの記事登録がないためか、略誌名の設定もありませんでした。
Evidence-Based Mental Health. (http://ebmh.bmj.com/)
BMJ Pub. Group 発行 (1998-, ISSN:1362-0347)。季刊。国際的な医学誌を対象に系統的検索を行い、メンタルヘルス領域の文献を選定しレビューをしているほか、EBMの実践を行う上で役立つ症例検討記事や統計情報なども掲載しています。詳しい編集方針は「About(https://ebmh.bmj.com/pages/about/)」にあります。略誌名は "Evid Based Ment Health"。
Cancer Treatment Reviews. (http://www.sciencedirect.com/science/journal/03057372)
Academic Press 発行 (1974-, ISSN:0305-7372)。年6号刊。2003年からは、Elsevier’s Oncology Journal Network の一部として刊行されています。版元サイトでは、がんの治療に関わる最新動向を把握することを目的とした国際的なレビュー誌とありました。略誌名は "Cancer Treat Rev"。
Evidence-Based Nursing. (http://ebn.bmj.com/)
RCN Pub. Co. ; BMJ Pub. Group 発行 (1998-, ISSN:1367-6539)。季刊。国際的な看護学誌を系統的に検索し、研究の有効性や最良の看護実践に関連性に関連する文献を選定。詳しい編集方針は「Aims and scope(https://ebn.bmj.com/pages/about/)」にあります。略誌名は "Evid Based Nurs"。
Evidence-based Healthcare and Public Health. (http://www.sciencedirect.com/science/journal/17442249)
Elsevier発行(2004-2005, ISSN:1744-2249)。隔月刊。2005年廃刊。編集方針や文献の選定方法の確認はできませんでした (版元サイトでは「廃止」の表記があるだけで編集方針などの記述は無く、目次情報から文献のデータに遷移してもすべてアクセス不可になっていました)。PubMedへの記事登録がないためか、略誌名の設定もありませんでした。
Synopses of Single Studies への近道をライブラリアンなりに考えてみた
上記で調査したEvidence-Based Abstract Journalsの例は、廃刊があったりタイトルや発行状況が変更されていたりと、更新の必要性を感じるものでした。とはいえ、私の目では、このページ以外(引用・翻訳も含む)で同様のリストがあるサイトを見つけることはできませんでした。一方で、雑誌というまとまった形ではなくても、Synopses of Single Studyとして使える文献はあります。もちろん、それをひとつひとつ探すのが大変だからという理由もあってEvidence-Based Abstract Journalsが刊行される訳ですが、統合や廃刊などの変遷情報を見ていると、文献を収集して選定してレビューして集めて定期的に刊行して…ということがいかに労力を要することなのかというのもわかります。さらに、そんなEvidence-Based Abstract Journalをリストアップしては更新をし続けるという作業も、なかなかに大変そうです。
とはいえ、私はライブラリアンです。
このようなことに出くわしたとき、打開策はないか、適解の道を探していくことも、ライブラリアンの仕事(のはず)です。
そこで、Synopses of Single Studiesとして活用できるリソースに出会うための近道となる方法がないか、考えてみました。
〈今回紹介したリソースは2020年2月15日までにアクセスと検索結果を確認しています〉
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