感染症といえば、季節の変わり目や冬の寒い時期をイメージする方も多いのではないでしょうか。体が冷えると免疫力が低下して、風邪をひきやすくなるという説明は、僕たちの常識的感覚に近いものでしょう。寝冷えをして風邪を引いてしまった、なんて話を聞くことも少なくありません。そんな中、寝室の暖房使用と感染症との関連性を検討した研究論文(コホート研究)が、日本疫学会誌の電子版に2020年3月7日付で掲載されました【1】。
この研究では、日本に在住している12歳以下の小児311人が対象となっています。研究参加者に対して2018年11月と2019年3月にアンケートを行い、暖房の使用状況や、その期間における感染症の発症状況、医療機関の受診状況などが調査されました。
調査期間中に寝室で暖房を使用していた小児は156人、使用していなかった小児155人でした。解析の結果、風邪を3回以上経験した小児は、寝室で暖房を使用してなかった場合と比べて、暖房を使用していた場合で77%、統計的にも有意に減少しました(オッズ比0.23[95%信頼区間0.10 ~0.49]。
同様に3日以上の発熱が73%(オッズ比0.27[95%信頼区間0.14~0.52])、風邪による3回以上の医療機関受診が72%(オッズ比0.28[95%信頼区間0.14~0.57])、インフルエンザ感染が45%(オッズ比0.55[95%信頼区間0.32~0.94])、胃腸炎の発症が65%(オッズ比0.35[95%信頼区間0.1~0.69])それぞれ、統計的にも有意に低いという結果でした。
風邪の発症が7割近くも減るという結果を前に、冬季には寝室を暖めておくことが感染症予防に効果的であるという印象をもたれることでしょう。一部のメディアでは、この研究結果を取り上げ、暖かい部屋で就寝することが免疫力を向上させ、新型コロナウイルスを含む、呼吸器感染症の予防に役立つのではないか……なんて報じているようです。
しかし、体の冷えが本当に感染症を引き起こす強い原因となりえるのでしょうか。寒さや冷えが感染症の原因であるのなら、アラスカに住んでいる人たちは年中、風邪を引きやすいということになってしまいます。そこまで極端に考えなくとも、東北地方や北海道に住んでいる人で風邪を引きやすく、九州地方や沖縄県に住んでいる人で風邪を引きにくいのでしょうか。調べてみたら、そのような関連性が見つかるのかもしれませんが、さしあたって地理的な気候の差異と風邪の頻度の関連を意識する機会は少ないように思います。
また、体が冷えると免疫力が低下して……とは言いますけど、そもそも免疫力ってなんでしょうか。「免疫力を高めて感染症予防」と言ったとき、何をもって免疫力の高さを評価するのでしょうか。評価しようがない概念を持ち出し、その高低を論じることはナンセンスなのではないか、僕はそんな風に思います。今回は、感染症と気象条件の関連性について整理しながら、免疫力なるものをどう考えていけばよいのか考察したいと思います。
【1】J Epidemiol. 2020 Mar 7. PMID: 32147645

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