地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2017年12月号 vol.3(12)

当たり前と思ってたことが覆ったエビデンス、それをどう捉えるか?〜統合失調症患者に対する生活習慣改善の取り組み〜

2017年11月28日 17:44 by 89089314
2017年11月28日 17:44 by 89089314

 私は精神科病院に勤める薬剤師なのですが、一番関わることの多い疾患というと、統合失調症でしょうか。精神疾患というのは一口に言っても様々なものがあって、近年急増しているように言われていますが、厚生労働省の統計によれば、大きく増えているのはうつ病や双極性障害などの気分障害、それと認知症であって、統合失調症というのは増えているわけではありません。とはいえ、気分障害や認知症の多くは外来で治療が可能なのに比べて、統合失調症は入院が必要になるケースが多いので、精神科のクリニックではなくて、入院施設を備えた病院ということであればだいたいどこも統合失調症が最多数になるんではないでしょうか。

 さて、そんな統合失調症ですが、よく言われるのが幻覚や妄想を主な症状とする病気です。ありもしない声が聞こえてくる「幻聴」(そしてそれと会話するための独り言)や、絶対にあり得ないことを確信して疑わない「妄想」は、我々から見たら非常に奇異で目立つ症状ですよね。例えば、私が以前担当した患者さんでは、

「何をしてもその動作にいちいちケチをつける声が聞こえる」

「街の人がみんなすれ違いざまに『バカ』とか『死ね』とか言ってくる」

「遠くのビルからずっとこっちを監視している人がいる」

「テレビやラジオがみんな自分のことについて報道している」などなど

本当に多彩なのですが、そんな症状が四六時中あったら夜も眠れないし、マトモに生活なんてできないので、まずは一旦入院して治療しましょう、ということになるわけです。

 このように、「本来あるべきでないものがある」症状を陽性症状と呼んでいます。

 陽性症状があれば、陰性症状もあります。これは「本来あるべきものがない」症状ということになります。特に、意欲や感情が失われることを指します。病前の生き生きとした雰囲気がなくなって、表情も乏しくなり、外からの働きかけに対する反応が弱くなったり、自分で何かするのがおっくうになったり、一見するとうつ病のような感じになったりします。

 他にも、統合失調症の症状には「思考障害」を伴うため、理路整然と論考したり、同時並行で物事を考えたり、先も見通したバランスの取れた判断をすることが苦手になります。そういったことも相俟って、統合失調症の患者さんは誰かのサポートがなければ、自分の健康で文化的な日々の生活さえ送ることが困難になる場合も少なくありません。

 こういった症状から引き起こされやすいのは、セルフコントロールやセルフケアの欠如です。統合失調症では過食や喫煙など健康に良くない生活習慣から抜け出せなくなるケースが多く、そういったこともあってか、一般人口と比べて寿命が短いことが知られています。北欧諸国のコホート研究ですが、一般人口と比べて女性で15歳、男性では20歳も短いという報告があります1)。そしてその超過死亡の多くは心血管疾患やがんであるという報告もあります2)。統合失調症という病は精神を病むのみならず身体も病む病気といえるかもしれません。

 そこで、私たちは精神科の臨床現場では患者さんに対する生活改善のための指導やサポートを行うこともしばしばで、それはひとえに、放っておけば不健康になってしまう生活習慣を改善し、身体疾患の合併を防ぎ、少しでも幸せに長生きしてもらうためです。

 しかし、そのような生活習慣改善のための取り組みは、実際のところどれぐらい統合失調症患者さんの寿命を延ばすことができているのでしょうか?

 今回はそれを検証したエビデンスを紹介するとともに、そこから得られた意外な結果と我々の現場をどう結びつけていくかを考えてみたいと思います。 

文献
1) PLoS One. 2013;8(1):e55176. PMID: 23372832
2) BMJ. 2013 May 21;346:f2539. PMID: 23694688

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