睡眠薬や抗不安薬として広く使用されているベンゾジアゼピン系薬(化学構造が異なるが同様の作用を持つベンゾジアゼピン受容体作動薬も含む。以下、BZD)は、かつては安全性の高い待望の薬でした。
BZDが登場する前の時代、催眠鎮静薬といえばバルビツール酸系と呼ばれるものが主流で、強力な作用を持ってはいましたが、非常に依存性が強く、また多量に飲むと致死的となるため、しばしば問題となっていました。「睡眠薬を飲むとクセになって止められなくなる」とか「たくさん飲むと自殺できる」といったイメージはこの頃に成立したものだと思われます。
そこに登場したBZDは、確かにバルビツール酸系に比べればはるかに安全な薬でした。大量に服薬しても、薬剤の毒性自体で死ぬことはありません(とはいえ、昏睡状態で嘔吐が起きるので吐瀉物で窒息して亡くなるケースはあります)。依存性も、当初は大量に使用しない限りは問題ないと思われていました。そのため、精神科領域だけでなく、プライマリ・ケア領域においても気軽に処方されるようになり、また国内各製薬メーカーも様々なBZDの開発と販売に力を入れたため、非常にたくさんのBZDが使われるようになりました。
例えばロフラゼプ酸エチル(メイラックス)の1998年の広告。
精神科薬広告図画集 のメイラックス広告をご参照ください。
何とも呑気な感じを受けませんか。
ちなみによく読むと、「重要な基本的注意」には自動車の運転などはさせないようにという注意しかありませんね。しかし、実際には、1980年代以降から通常の用法用量を守って適切に使っていても、依存に陥ってしまうという報告がなされています1), 2)。
そして2017年になってようやく、厚生労働省は医薬品・医療機器等安全性情報としてBZDの依存性について注意喚起を行い、適正使用の呼びかけや医薬品添付文書の改定を指示するに至りました。
医薬品・医療機器等安全性情報No.342「催眠鎮静薬,抗不安薬及び抗てんかん薬の依存性に係る注意事項について」
PMDAからの医薬品適正使用のお願い「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について」
こういったことを受けて、現在では「連用により薬物依存を生じることがあるので、漫然とした継続投与による長期使用を避けること。」という注意も入っています。
とはいえ、これまで安全だと思って使ってきた医療者や患者さんからしてみれば「今さらそんなこと言われても……」と、途方にくれる人もいるのではないかと思います。そこで今回は、最近報告された慢性的なBZD使用からの中止のために使える薬についてのシステマティックレビューを紹介しながら、「依存」という側面からBZDの中止のためにどのようなことが必要なのかについて考えてみたいと思います。
なお、BZDの具体的な中止方法については過去の地域医療ジャーナルにとても良い記事が載っていますのでそちらも参照してみてください。
地域医療ジャーナル2017年7月号 『ベンゾジアゼピン系薬剤を中止するときの漸減の目安は?』by ph_minimal
文献
1. Rickels K, et al. Long-term diazepam therapy and clinical outcome. JAMA. 1983 Aug 12;250(6):767-71. PubMed PMID: 6348314.
2. 後藤伸之,他.Triazolamの常用量依存.臨床薬理.1996;27(2):465-468.
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