地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2018年05月号 vol.4(5)

うつ病治療中に妊娠してしまったら、抗うつ薬は止めなければいけませんか?

2018年04月28日 15:26 by 89089314

 妊娠〜出産は女性にとって人生の一大イベントであると同時に生まれてくる命にとっても最初の試練だと言えるのではないでしょうか。

 そんな大きなイベントだからこそ、そして昔ほどは出産の機会は少なくなっているからこそ、「失敗したくない」そう願う人が多いのではと思います。そしてできるだけリスクを回避しようとするわけです。

 私は薬剤師なので、妊娠や出産と薬との関係について相談を受ける機会も多く、また考えさせられることも多いです。妊娠・出産と薬との関係は、過去のサリドマイドの薬害事件を例に出すまでもなく、様々な薬で妊娠あるいは出産そのもの、そして子どもへの影響が疑われる報告がありますが、むしろ全く分かっていないもののほうが多いと言えます。なので、「リスクを測りかねるから、とりあえず避けておこう」という気持ちはわかりますし、大体のケースにおいてその判断でいいんじゃないかと思います。

 とはいえ、本当に「因果関係があるのか」については、なかなか評価が難しいのが現状です。

 例えば全然違う例ですが、「下剤を飲みすぎると下痢をする」という因果関係。これはとても分かりやすいです。お腹が痛くてトイレを往復するのは苦しいですが、やがて元に戻りますし、何度かやってみて再現性があるかどうか確かめられれば自覚的にも客観的にも因果関係があると言えるでしょう。

 ところが、妊娠・出産に関してはそうはいきません。妊娠経過や出産トラブル、子どもに何らかの障害が起こるなどのアウトカムがどれか特定の薬で起こるかどうかというのは、1人の被験者で何度も試すわけにも多数の被験者でランダム化比較試験をやるわけにもいきません。取り返しのつかない不幸なアウトカムを測定する臨床研究は倫理に反していますからね。しかし、何も薬を飲んでいなくても、あらゆるリスクを排除したとしても、妊娠や出産、そして生まれてくる子ども自体にある程度のリスクがあることが分かっています。

 いわゆる「ベースラインリスク」と呼ばれるものです。

 例えば、臨床的に妊娠と診断されたケースのおよそ15%に流産が起こるとされていますし、出生時に気付く子どもの先天異常(奇形など)は1〜3%程度、成長と共に明らかになる異常(精神遅滞など)を含めると3〜5%程度、どの妊婦にも等しいリスクとして存在することが分かっています。

 ということは、薬を飲んでリスクがあるかどうかというのは、このベースラインリスクと比べてリスクが明らかに上がるといえるかどうかという議論になるとご理解下さい。

 一方で、いくつかの病気は、このベースラインリスクを上げてしまうこともまた分かっています。代表的なのが妊婦の糖尿病ですね。そして風疹などの感染症です。こういったのは母子手帳にも書いてあるぐらい明らかなリスクです。

 そして今回とりあげるうつ病も、実は妊娠・出産アウトカムを悪化させるかもしれないという報告があります。うつ病には、薬による治療を中断すると再燃する場合も結構あるため、妊娠のために薬によるリスクを避けて服薬を中断したはいいが、今度は再燃というリスクを抱えて、そしてもし再燃したら子どもにも影響があるかもしれないというリスクを抱えるわけですから、「じゃあ結局のところどうしたらいいの?」という疑問、いや、不安や恐怖を感じてしまうかもしれません。

 そのような悩みに答えることができるのは、疫学的に解析された定量的データです。これから、そのようなうつ病と妊娠・出産のリスク、抗うつ薬とのリスクについて、それがどの程度の懸念なのかをいくつかの論文情報を例示しながら、1つの考え方を示してみたいと思います。

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