地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2017年05月号 vol.3(5)

抗精神病薬が効くというのはどういうことですか?〜せん妄に対するエビデンスからの考察〜

2017年04月18日 23:16 by 89089314
 「せん妄」という、病気というか、状態があります。ひとことで言えば、一過性に全般的な認知機能が障害される意識障害のことです。その結果、意識がもうろうとした感じでわけの分からない言動をしたり、暴れたり、奇妙な幻覚が発生したり、どこにいるのか分からなくなったり今日が何月何日なのか分からなくなったり、といったことが起こります。
 せん妄は、「一過性に」という点では認知症とは異なり、短時間のうちに発生して1日のうちでも症状が変化することが多いです。また、「意識障害」が中心という点では精神病とは異なります(精神病症状の中核は「思考障害」と言われており、同じような幻覚妄想状態に見えても、精神病では意識がはっきりしていることが多いです)。

 ちなみに、例えばよく用いられる米国の診断基準(DSM-IV-TR)によれば、以下のような項目を満たすものをせん妄と呼びます。

A. 注意を集中し、維持し、他に転じる能力の低下を伴う意識の障害
B. 認知の変化(記憶障害、失見当識など)、または認知症ではうまく説明されない知覚障害の発現
C. その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間から数日)、1日のうちで変動する傾向がある
D. 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が一般身体疾患の直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある

 せん妄は、主に脳器質疾患、全身状態、薬剤によって引き起こされます。例えば、脳卒中、脳炎、脳腫瘍など脳に発生した病変が直接的な原因となって意識障害を引き起こすケースがあります。これは多分、何となくイメージできるかと思います。
 次に全身状態です。脱水、電解質異常、重症感染症、内分泌疾患、栄養障害(ビタミン欠乏など)、悪性腫瘍、肝不全、腎不全、心不全、呼吸不全、急激な貧血など、様々な病態や身体的に高ストレスな状態が原因となることがあります。実は、「術後せん妄」といったものがよく知られているのですが、大きな手術など強い侵襲を受けた状態というのもせん妄を引き起こしやすいようです。
 また、その術後せん妄のように病院で起こるせん妄には、薬剤によって引き起こされるせん妄も複合要因の一つとしてあるようです。一般的には、鎮痛のためのオピオイド系薬、抗コリン薬、ステロイド剤、ベンゾジアゼピン系睡眠薬などがその原因となることが知られています。もちろん、精神作用物質という点では、アルコールや覚せい剤などの薬物もせん妄の原因となります。薬剤が原因のせん妄というのは、病院じゃなくても自宅療養中でも起こり得るのが厄介といえるでしょうか。たくさん薬を飲んでいる高齢者が急に認知症っぽくなったとかいうケースはせん妄であることがありますね。
 とまあ、このようにせん妄の原因はいくつかあって、しかも単独ではなくて複合要因として起こることも多いと思われるため、原因の除去や予防というのはなかなか大変なものがあると思われます。
 そのための治療としては、メジャートランキライザーとも呼ばれる抗精神病薬が広く使われていますが、実はその効果に疑問を投げかけるエビデンスも報告されています。
 例えば、今年になってから、「緩和ケア患者のせん妄に対する抗精神病薬の使用は効果がないどころかむしろ有害かもしれない」という論文が報告されています。
 それってちょっとどういうことか、今回はこの論文から話を進めてみましょう。
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