インターネットの急速な普及により、様々な医療・健康情報が、誰でも手軽に入手できる時代となっています。しかし、それらは必ずしも妥当な内容を含んでいるとは限りません。DeNAが運営する医療系情報サイト 「WELQ(ウェルク)」 が、信憑性の乏しい情報を発信したことなどが問題となり、サイトの無期限中止に追い込まれたことは記憶に新しいでしょう[1]。
2017年12月、Googleは医療や健康に関連するインターネット検索結果の改善にむけ、日本語検索におけるページ評価方法をアップデートしました[2]。この変更は、医療や健康に関する検索結果の改善を意図したもので、例えば医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く、有益な情報が上位に表示されやすくなるというものです。
他方で、検索アルゴリズムの変更により、医療系記事のアクセスが激減したとの情報も散見されます。その要因の一つに、ページ内に使用されている専門用語の数があげられます。専門用語を使わず、一般読者にも理解できるような、分かりやすいコンテンツを提示できないと、検索上位には表示されにくいという状況のようです。
しかしながら、分かりやすいことと、コンテンツの妥当性というのは、必ずしも同義ではありません。むしろ、臨床医学論文のような信頼性の高い情報を引用すると、どうしても単純明快なコンテンツを作りにくいかと思います。薬の効果一つとっても、主観で語れば、「効くか」のか、「効かない」のか、わりと単純明快に記述できるかもしれませんけど、疫学的な研究データが示す薬剤効果は、極めて曖昧であり、そして不明瞭です。
このような曖昧性を言語化することで、読み手によっては、「結局この薬には効果があるの?それともないの?どっちなの?」 という何とも煮え切らない印象を与えてしまうことでしょう。したがって、情報の妥当性を上げればあげるほど、“わかりやすさ” という観点からすれば、分かりにくいコンテンツに分類されてしまうことも多いのではないかと思います。
また、論文情報を引用するとなると、どうしても統計的な用語、あるいは少なくとも数字を使わなければ、薬剤効果を記述することが難しく、数字アレルギーの人にとっては極めて難解なコンテンツとなってしまいます。情報の科学的妥当性を担保することで、Google検索の上位から排除されてしまうことは十分にありうるのです。
そんな中、論文情報など一切参照せずとも、理論的に単純明快に記載されたコンテンツであれば、検索上位に上がってくる可能性は高くなります。例えば「“インフルエンザワクチン” “うつべき”」というような、非専門家が選びそうなワードでGoogle検索をかけると(図1)のようになります。
(図1)「“インフルエンザワクチン” “うつべき”」でグーグル検索(2018年6月7日)
ここに検索された上位の情報全てが、妥当性の低い情報と言うわけではありませんが、玉石混合といった印象はぬぐえません。Google検索アルゴリズムが改善されたとしても、現段階では、妥当性の低い情報が上位に検索されることは稀ではないのです。今後、さらにアルゴリズムの改善がなされ、情報の淘汰が進むかもしれませんが、大事なのは、医療・健康情報の妥当性をしっかりと吟味できる能力、つまり情報リテラシーやヘルスリテラシーと呼ばれるスキルが重要なのだと思います。
とはいえ、専門的な医学知識を持たない一般読者が、どのように情報の質を評価すればよいのでしょうか。いわゆる”ニセ医学情報”に騙されないために必要な専門知識は、必ずしも理解しやすいものばかりだけではありません。
そこで、この連載では、ネット上の医療・健康情報に関する “文章表現”から、情報の妥当性を吟味してみる、という試みを展開したいと考えています。つまり国語力で、情報の良し悪しを考えてみようと言うわけです。医療・健康情報はどちらかと言えば理系の専門知識を使うようなイメージですけど、そこを国語力で何とか乗り越えてみる、そんなチャレンジングな企画ですが、数回に分けて連載をしてみようと思います。今回はインフルエンザワクチンに関する文章をもとに、その内容の妥当性吟味をしていきます。
[1]http://dena.com/jp/press/2016/11/29/1/
[2]https://webmaster-ja.googleblog.com/2017/12/for-more-reliable-health-search.html
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