みなさん,こんにちは。そしてはじめまして。シンノユウキと申します。今月号より連載を開始させていただきました。よろしくお願いいたします。最初ですので,簡単に自己紹介させてください。ブログ『みんな栄養に頼りすぎてる』やTwitterで食や栄養について情報を発信している管理栄養士です。上記のブログでは食や栄養に関する話題だけでなく,私が個人的に興味を持っているICTの活用についての記事も掲載しています。ご興味あればぜひ見てみてください。なお本ジャーナルでは特にEBN(科学的根拠に基づいた栄養学)に関する記事や,情報検索とICTの活用に関する記事について書きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
さて,今回のテーマはビタミン・ミネラルのサプリメントです。ビタミン・ミネラルのサプリメントは,いまやドラッグストアだけでなくコンビニエンスストア等でも販売されており,広く利用されていることが推測できます。しかし,これらサプリメントの利用に際してはある種の疑問もついて回ります。すなわち,(a)サプリメントの摂取が健康の維持に役立っているのか,(b)サプリメントを使ってまで栄養素を摂取する必要があるのか,といった点です。これらについて,現状で利用できる文献等を確認しながら考察したいと思います。
はじめに
サプリメントの定義
まず,サプリメントの定義について整理しておきます。
サプリメント(Supplement)は英語で「補足」や「付録」などの意味を持ちますが,日常会話等で「サプリメント」という言葉を使う際に,その意味で使う人は少ないのではないかと思います。
一般的には,栄養素や機能性成分を補給する目的で摂取されるタブレット状のものを指して使われるのではないでしょうか。米国ではDietary Supplementとして,■食事を補う目的で摂取される,■ビタミンやミネラル,ハーブやアミノ酸等の栄養成分を含む,■タブレットやカプセル,液体の形状で経口摂取される製品である,の様に定義されています【1】。
サプリメントという言葉を利用する際には,米国で使われているDietary Supplementの意味で使うのが便利なように思いますので,以下で単にサプリメントとする場合には上記の定義によるものであると理解してください。
なおこの記事では,サプリメントの中でも特にビタミンやミネラルの補給を目的としたサプリメントについて取り上げます。その際には,単にサプリメントだけでなくビタミン・ミネラルのサプリメントのような形で表現いたしますのでご承知おきください。
サプリメントの利用率
今やサプリメントを使ったことがない人の方が少数のようです。日本人を対象サプリメントの利用状況等を把握する目的で実施された研究では,男性の55%,女性の61%がサプリメントを利用していることを報告しました【2】。この研究には40~82歳の2,259人が参加しており,過去12年間のうち年に1回以上サプリメントを利用していた人をサプリメント利用者としています。やや高齢に偏っている点や,過去12年間のうち年に1回以上利用という範囲の広さはありますが,半分以上に利用経験があるというのは注目すべき点だと思います。
また上記の半分以上という結果は,サプリメント全般についての結果でした。ビタミン・ミネラルのサプリメントに限ったらどうでしょうか。
ビタミン・ミネラルのサプリメントについて習慣的に摂取していると考えられるのは,男性で10%弱,女性で15%程度と考えておくと大きくハズレなそうです。【2】の研究で,ビタミン・ミネラルのサプリメントを毎日利用していると答えた人の割合はビタミンで男性10.0%,女性16.2%,ミネラルでは男性1.5%,女性4.2%となっていました。さらに,2003年~2009年の国民健康・栄養調査を対象にしたサブ解析では,特定のビタミン・ミネラル(ビタミンE,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンC,カルシウム,鉄)を含むサプリメントを1日間の食事調査日に利用していた人は,各年平均で6.8%(男性5.7%,女性7.7%)であったことを報告しました【3】。この研究は1日間の食事調査であり,かつビタミン・ミネラルの一部のみを対象にしていたことから,やや少なめに報告されている点は否めず,それらを勘案するとビタミン・ミネラルのサプリメントを習慣的に摂取していると考えられるのは,男性で10%弱,女性で15%程度と考えておくと良さそうと推測できます。
サプリメント利用者の特徴
ところで,サプリメント利用者と非利用者とでは,生活習慣等の健康に影響する特性についても違いがあることが確認されています。
たとえば,米国の成人を対象にしたコホート研究では,サプリメント利用者は非利用者と比べて,■高齢である,■女性が多い,■教育歴が長い,■貧困率が低い,■タバコを吸わない,■お酒を飲まない,■食事の質が高い,■よく運動する,■肥満者が少ない,■がんや高血圧症,高コレステロール血症等の存在率が高い傾向にありました【4】。
また日本人においても,サプリメント利用者は非利用者と比べて,■タバコを吸わない,■よく運動する,■高血圧症や糖尿病等の存在率が高い傾向が認められています【5】,【6】。
サプリメント利用者は,生活習慣や食事の乱れをサプリメントで補おうとするというよりは,基本的には健康的な生活をおくりながらそれに上乗せされる形でサプリメントを摂取している傾向にあることがわかります。なお,健康的な生活習慣を持っていながら持病がある人も多いことは,病気になったことが健康的な生活習慣への変更を促したり,サプリメントを摂取したりするようになる可能性を示唆するものと考えることも可能かもしれません(もちろんこの結果だけではその因果関係については不明です)。
サプリメントを利用する目的
サプリメントを利用する目的は,1)健康の維持,2)栄養素のサポート(補給)とされています。これは,日本人のサプリメント利用者を対象にしたアンケート調査(健康な人・外来患者・入院患者が含まれる)で報告されました【7】。サプリメントを摂取する目的についてアンケートで訪ねたところ,70.6%が健康の維持に,36.7%が栄養素のサポート(補給)を目的にと回答しています。
では果たして,それらの目的を達成するためにサプリメントを摂取することは適切なのでしょうか。以下で考察していきたいと思います。
参考文献
【1】 National Institutes of Health. Background Information: Dietary Supplements - Health Professional Fact Sheet. https://ods.od.nih.gov/factsheets/DietarySupplements-HealthProfessional/.
【2】 Imai, T., Nakamura, M., Ando, F. & Shimokata, H. Dietary supplement use by community-living population in Japan: data from the National Institute for Longevity Sciences Longitudinal Study of Aging (NILS-LSA). J. Epidemiol. 16, 249–260 (2006) PMID:17085875.
【3】 Tsubota-Utsugi, M. et al. Distribution of vitamin E intake among Japanese dietary supplement and fortified food users: A secondary analysis from the national health and nutrition survey, 2003-2009. J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo). 59, 576–583 (2013) PMID:24477257.
【4】 Chen, F. et al. Association among dietary supplement use, nutrient intake, and mortality among U.S. Adults. Ann. Intern. Med. 170, 604–613 (2019) PMID:30959527.
【5】 Sato, Y. et al. Personal behaviors including food consumption and mineral supplement use among Japanese adults: A secondary analysis from the National Health and Nutrition Survey, 2003-2010. Asia Pac. J. Clin. Nutr. 25, 385–392 (2016) PMID:27222423.
【6】 Hara, A. et al. Use of vitamin supplements and risk of total cancer and cardiovascular disease among the Japanese general population: A population-based survey. BMC Public Health vol. 11 (2011) PMID:21740538.
【7】 Chiba, T. et al. Inappropriate usage of dietary supplements in patients by miscommunication with physicians in Japan. Nutrients 6, 5392–5404 (2014) PMID:25431879.
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