地域医療ジャーナル ISSN 2434-2874

地域医療ジャーナル

2020年09月号 vol.6(9)

生きることは健康リスクそのものであるということ。

2020年08月29日 21:45 by syuichiao

 健康診断は、疾患の予防、早期発見を目的とした予防的な医療の中でも、身近な医療の一つでしょう。労働安全衛生法では、事業主に対して、労働者に対する健康診断の実施を義務付けており、会社勤めの人にとっては、“健康診断は1年に1回は受けておくもの” というイメージが一般的かもしれません。とはいえ、健康を診断するとはそもそもどういうことなのでしょうか。健康診断を受けていれば安心、というような価値観が、一定の常識を形成している現代社会において、健康診断を受けることによって、その後の健康状態がどのように変化しうるのかについて語られることは少ないように思います。

 2019年に、健康診断の受診と死亡リスクや合併症リスクを検討したレビュー論文(システマティックレビュー・メタ分析)【1】が報告されました。この論文では糖尿病、あるいはがんなど単一の疾患に対する健診ではなく、2つ以上の疾病(健康リスク因子含む)を対象とするような一般的な健康診断(General health check)を受けた集団と、受けていない集団を比較したランダム化比較試験、15研究(参加者251,891人)がレビューの対象となっています。

 その結果、健康診断を受診しても、総死亡(リスク比1.00 [95%信頼区間0.97~1.03]、がん死亡(同1.01 [同0.92~1.12])心血管死亡(同1.05 [同0.94~1.16])、虚血性心疾患(同0.98 [同0.94~1.03]、脳卒中(同1.05 [同0.95~1.17])、いずれにおいても有意なリスク低下は示されないという、直観に反する結果が示されました。健康診断は病気の早期発見には有効なのかもしれませんが、生命予後や重篤な合併症予防にはあまり寄与していないことが示されているのです。その理由をいくつか考察してみましょう。

■健康診断の研究では、そもそも健康的な人が対象となっている!?
 健康診断を実施する群と、実施しない群を比較したランダム化比較試験がレビュー対象となっていますが、このような研究に積極的に参加するような人たちは、どんな背景特性を有する集団だったのでしょうか。一般的に、ランダム化比較試験を行う際には、研究参加者に対して、どのような治療法が実施されるのか、事前に丁寧な説明が行われます。つまり、被験者は健康診断の効果を検討するための研究であることを理解したうえで参加しているのです。したがって、被験者となった人たちは、健康に対する関心が高い集団といえるかもしれません。健康に無関心な人は、そもそもこのような研究に参加しようとは思いませんよね。

 健康に対する関心が高い人では、たとえ健康診断を実施しない群に割り付けられたとしても、食事や運動など、健康状態に配慮する傾向にあるかもしれません。つまり、健康診断を実施した群と実施しなかった群で、潜在的な健康リスクに大きな差がなかった(みな健康志向)とも考えられ、それが故に研究結果にも差を認めなかったと考えることができます。

健康診断で問題が発見されても、放置する人も少なくない!?
 たとえ、健康診断で問題が見つかったとしても、多忙を理由に医療機関を受診しなかったり、喫煙や飲酒など、健康に悪いとされるような生活習慣を継続する人もいることでしょう。健康診断を実施する群に割り付けられた人のうち、健康上の問題を指摘され、なおかつ生活習慣の改善や薬物治療を開始した人は、郡内の一部に過ぎません。将来的な健康リスクについて、健康診断を実施した群といえど、群全体の平均でみれば、健康診断を実施しなかった群とあまり変わらないのかもしれません。

健康診断で見つかるような生活習慣病に対する治療効果は思いのほか小さい
 脂質異常症や糖尿病など、健康診断で指摘されるような生活習慣病に対する治療の効果は、決して大きなものではありません【2】。健康診断で病気を指摘され、適切な薬物治療を受けた人がいたとしても、将来的な予後に与える影響は決して大きいものではなく、健康診断を受けなかった人と比較しても、健康リスクに著明な差がつくかといえば、必ずしもそうではないのです。

 さて、一連の考察から浮き彫りとなるのは、健康に対する関心が高い人は、そもそも健康リスクが低い可能性、そして健康診断で指摘されるような問題に対する治療効果は、僕たちが思うほどには大きくない可能性です。

 物事に対する関心は、自分の意志で能動的に有することができるものではありません。また、一般的に健康に対する関心は、保有する関心の優先順位としては決して高いものではなく、端的には衣食住が確保されたうえで持つことができるものです。当たり前ですが、日々の生活が経済的に困窮していれば、関心の矛先は健康状態よりはむしろ、明日の経済状態に向けられることでしょう。健康に対する関心が高い人たちは、そのような関心が持てるくらいには余裕があり、社会的に豊かな生活環境で暮らしている集団と言えそうです。本稿では、健康状態の変化をもたらす要因を、「近位の原因」「遠位の原因」に分けながら考察し、健康に対するリスクとは何かについて、検討してみたいと思います。

【参考文献】
【1】Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan 31;1:CD009009. PMID: 30699470
【2】なぜ薬の効果は小さいのか? 「木を見て森を見ず」的な薬の効果に関する考察(https://note.com/syuichiao/n/ne8d722c0c0fd
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