先日、厚生労働省は新規抗精神病薬としてブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ®)を承認しました。新しい薬が登場するというのは、やはり期待してしまうものです。それも、それまでの薬物療法が十分なアウトカムをもたらしていないとすれば……
近年登場した抗精神病薬は「非定型」または「第2世代」と呼ばれ、それまでのものと区別されていますが、これは一般的には1996年のリスペリドンの登場(登場年は日本国内におけるもの。以下同じ)以降の薬がそういうふうに分類されています。実は私の薬剤師人生ともリンクしているのでちょっと思い出とともに振り返ってみましょう。
◯1996年 リスペリドン(リスパダール®)登場
私は1999年からとある精神科病院にて調剤補助のアルバイトをしてました。当時は多剤併用大量処方が普通でしたね。今にして思えば、この時あったリスペリドンも普通の使い方はされてなかったと思います。承認用量上限の12mgも、そこまで使うと効き方はハロペリドール同様に過鎮静や錐体外路症状(振戦、筋強剛、仮面様顔貌、流涎など)が出ますんで今では多すぎると考えられているぐらいですからね。それなのに「上限超え」の処方もいっぱい見ました。
◯2001年 オランザピン(ジプレキサ®)、クエチアピン(セロクエル®)、ペロスピロン(ルーラン®)が相次いで登場
このあたりが一番沸き立っていたように思います。第2世代抗精神病薬はそれまで統合失調症を抗精神病薬で治療しようとするとどうしても切り離せなかった錐体外路症状という副作用をそれほど起こさずに治療でき、かつ従来型の抗精神病薬では無効とされていた統合失調症の陰性症状に有効とされていたのですが、量を増やすと第1世代と大して変わらなくなるリスペリドンと違ってこれらはより「第2世代っぽさ」が強かったからです。
それでバンバン使われだしたんですが、結局それまでの薬に上乗せになるだけだったり、あんまり美しい使い方ではなかったですね。それに高血糖や体重増加など新たな(というかそれまで目立たなかった)副作用が注目されるようになりました。
◯2006年 アリピプラゾール(エビリファイ®)登場
ドパミン神経を「適度に」遮断することができる初めての薬剤として大きな期待とともに登場した薬です。しかしまあ、低用量では賦活的、高用量では軽い鎮静という癖はこの当時なかなか使いにくかったようです。少量から恐る恐る使ってみてことごとく失敗した精神科医の先生方もたくさんいたんじゃないでしょうか。実は私、発売当初から当時勤務していた病院で処方医へのアンケートとアリピプラゾールの処方動向の調査を行い、低用量から急速置換で切り替えると脱落率が高くなることを報告しました1), 2)。ちょっと思い入れのある薬です。
そしてその後も……
◯2008年 ブロナンセリン(ロナセン®)登場
◯2009年 クロザピン(クロザリル®)登場
◯2011年 パリペリドン(インヴェガ®)登場
◯2013年 パリペリドンパルミチン酸エステル(ゼプリオン®)登場
◯2015年 アリピプラゾール水和物(エビリファイ持続性水懸筋注®)登場
◯2016年 アセナピン(シクレスト®)登場
という感じで、ほぼ毎年のように新薬が登場してきているわけですが、それによってものすごく治療成績が良くなったという報告はありません。また、これらの中ではクロザピンが比較的治療効果が高いとされているのですが、無顆粒球症などの致死的副作用のおそれがあるため、使用できる病院は制限され、厳しいプロトコルで管理されるためあまり一般的ではありません。
それ以外の薬剤では、リスペリドンやオランザピンは他剤に比べて有効性が高いとするエビデンスはありますが3)、その差は臨床的に意義があるほどの差かどうかは議論が有ります。しかも、臨床的にはある薬剤で全く無効だった患者さんが別の薬剤に変えると良くなったという事例はしばしば経験しますし、そうなると平均値としてのエビデンスはますます適用するのが難しく感じてしまいます。
そういった感じなので、新しい抗精神病薬には、それまでの薬を凌駕する点があるのかどうか、それともただ選択肢が増えるだけなのか、新しい薬というのはまだまだエビデンスが限られているのですが、ブレクスピプラゾールを理解するのに重要そうな論文をいくつか紹介して考えてみたいと思います。
1) 桑原秀徳, 他.医療薬学.2007;33:748.
2) 桑原秀徳,他.日本精神科病院協会雑誌.2007;26:593.
3) Leucht S, et al. Lancet. 2013;382:951. PMID: 23810019.
読者コメント